東京家出×写ルンです14
曇っているのにビルの窓には青空みたいなブルーが映っていた。
心の色は、写真に残るだろうか…
シャッターを押してみる。
どんよりと曇った空を眺めて、ベンチに座ったまま、この先、本当にどーすんだよ…と、またもやぼんやりする。
手に持った十六茶を飲み切ったころ、左隣に座っていた老人に声をかけられた。
「お近くですか?ここにはよくいらっしゃいますか?」
「いえ、少し遠くから…」
「曇っていますが、天気は持ちますかね?」
「天気予報では雨と言っていましたし、降るかもしれませんね」
そんな、初対面の何気ない会話をしてやり過ごすつもりだった。
「今日は、お仕事はお休みですか?」
老人が、探るような目をしてゆっくりと笑いかけてきた。
その表情に、なにかを見透かされた気持ちになる。
「はい…」動揺しないように返事をしたけれど、その一言なのに自分の態度はあまりに不自然だった。
もちろん、自分は仕事をさぼっているわけではないけれど、全てを投げ出したい、という、もっと後ろめたい気持ちを抱えてここへやってきたのだ。
「失礼します」飲み切った缶を捨てにいくだけだ、という雰囲気を出そう…できるだけ、平静を装って、その場を立ち去る。
同じ道を4往復も5往復もしてしまっていた気がする。
知らずに目立って、気にしている人が他にもいるかも…
落ち込んだり、しょんぼりしている時って他人の目にも見えるものを出してしまっているのだろうか。
極力、そこにいる沢山の人々に溶け込んでいたかったけど、やっぱりこの場にいる他の人と比べて明らかにおかしな気持ちを今の自分は持っているわけだし。
高校生の頃も、似たようなことがあった。
落ち込んで、学校から駅に向かっていると、向かいからやってきた三輪車に乗った子どもが、私の前で止まって話しかけてきた。
「沈んでるじゃん」
子どもにすら分かるくらい、私、落ち込んでるの???
ハッとして、すれ違う子どもを見つめた。
今思えば、それは本当の体験じゃなかったのかもしれない。
こんなにリアルに思い出せるなんて。
心の色は、そこに写るのだろうか…
lomomaria-m a r i @ l i t e .